2017年09月05日
はやぶさ型ミサイル艇 「はやぶさ(PG-824)」、「うみたか(PG-828)」 一般公開
みなさん、お久し振りです。
ついこの前、新潟西港で護衛艦「まつゆき」を見学したばかりだと思ったいたのですが、あっという間に8月も終わってしまいました・・・。
ここではお知らせしませんでしたが、8月は2年ぶりに陸自の総火演に行けたりしたので、この夏は個人的に自衛隊イベント尽くしです。
さて、今年の自衛隊イベントの締めくくりということで、先日9月2日(土曜日)及び3日(日曜日)の両日、長岡市寺泊港西埠頭において催された海上自衛隊「はやぶさ型」ミサイル艇である「はやぶさ(PG-824)」、「うみたか(PG-828)」の一般公開に行ってきました。
現在、「はやぶさ」と「うみたか」は京都府舞鶴基地を拠点とする舞鶴地方隊第2ミサイル艇隊に所属しています。
「はやぶさ型ミサイル艇」について詳しく知りたい方は、ウィキペディア「はやぶさ型ミサイル艇」を参照願います。
昨年の「せとぎり」、今年の「まつゆき」は何れも雨模様だったのですが、今回は夏らしい晴天。
最終日となる日曜日は午前(9時から11時00分)と午後(13時30分から16時00分)に艦内を見学できました。
午後一番での見学を狙って12時30分ころ現地に到着したのですが、既に多数の見学者が・・・。
この手の自衛隊イベントではよくあることですが、来場者数が多いため、予定を繰り上げていたようです。
2隻並んで停泊中。左が1番艇の「はやぶさ(PG-824)」、右側が5番艇の「うみたか(PG-828)」です。
全長50.1m、最大幅8.4m、基準排水量200トン(満載排水量240トン)、乗員21名
最新の汎用護衛艦(DD)と比べると全長で1/3程度、乗員数で1/10程度、排水量だと1/30程度もの差があり、正に庶民の見なれた漁船・・・いやボートサイズです。
しかし、小さい船と侮ると文字どおり痛い目にあいます。
本級の最大の武器は、後部に搭載された4発の対艦ミサイル(90式艦対艦誘導弾SSM-1B)と、強力なウォータージェット推進装置から得られる最大44ノット(81km/h)の高速航行性能にあります。
また、主砲も基準排水量200トンながら「はつゆき型」や「あさぎり型」など旧型の汎用護衛艦と同様のオート・メラーラ62口径76ミリ単装速射砲を搭載。
小さな船体に現代の大型戦闘艦艇を一撃で戦闘不能にする強力な対艦ミサイルを搭載した本級は、正に男のロマンを具現化したような非常に魅力的な存在です。
▲ステルス型シールドを備えた62口径76ミリ単装速射砲(オート・メラーラ 76mm スーパー・ラピッド砲)
▲後部に設置された90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)連装発射筒
本級最大の特徴にして、唯一の長距離水上打撃力である国産の90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)は、陸上自衛隊で運用されてた地上発射式の88式地対艦誘導弾(SSM-1)の艦載型として開発されました。
射程距離は旧来から海上自衛隊で運用されていたハープーンSSMよりも延伸され、150km程度と推定されています。
なお、発射管制システムや発射機架台などはハープーンSSMと相互運用性を確保しています。
対艦ミサイル発射の瞬間はこんな感じです。
ミサイル艇は、一撃必殺のヒットアンドアウェイ戦術が基本となります。
対艦ミサイルを発射した直後は、敵艦船からの自己位置の評定と反撃を避けるため、直ちに当該海域を離脱します。
また、島嶼部海域での作戦行動では、島影などの遮蔽物を利用した奇襲的な戦術も効果的です。
本級は汎用護衛艦のように対空捜索レーダーや対空ミサイルなどの本格的な対空戦闘システムを装備していません。
主砲の76mm単装速射砲に有視界での限定的な対空戦闘能力はありますが、高速で飛来する対艦ミサイルへの防御能力は貧弱です。
このため、敵艦やミサイルのレーダーに捕捉されないように船体の各部に徹底したステルス形状を採用し、少しでも生存性を高めています。
乗員の方に伺ったところ、後部の90式艦対艦誘導弾は、設計上は他の汎用護衛艦と同様に合計8発の搭載が可能とのことです。
しかし、最大数を搭載すると重量増加の影響で本級の存在意義である高速性能が十分に発揮できないことから、平時から4発搭載が基準とのことでした。
運用上の現実性はありませんが、一度でもいいので退役前に8発フル装備した重武装の姿を拝みたいものですね。
▲本級の特徴であるウォータージェット推進装置のダクト
ウォータージェット推進方式は、通常の護衛艦で採用されているプロペラスクリュー推進方式とは異なり、高圧ポンプで船底から吸い込んだ大量の海水を後部のダクトから一挙に噴出し、高速航行に必要な強力な推進力を得ます。
本級では出力5,400馬力のガスタービンエンジン3基を搭載しており、各1基がウォータージェット推進ダクトに接続されています。
なお、ウェオータージェット推進方式に舵(ラダー)は存在せず、海水を噴出するダクトの向きを変えることで、進行方向を決定します。
▲Mk.137 6連装デコイ発射機(チャフロケットランチャーシステム)
▲臨検用の6.3メートル型複合型作業艇(RHIB)
▲搭載火器が保管されている小火器格納箱
艇内の小火器格納箱には、船舶臨検時や儀仗時に使用する9mmけん銃、9mm機関けん銃、64式7.62mm小銃、同銃剣、散弾銃、12.7mm重機関銃が保管されています。
12.7mm重機関銃は、艦橋後部両舷の銃架各1基に設置可能です。
最終日の午後5時30分、2日間の一般公開を終えた2隻は寺泊港を無事出港しました。
「はやぶさ」、「うみたか」乗員の皆様、当日はご丁寧に対応していただき、ありがとうございました。
皆様のご健勝とご活躍をお祈りしております。
本年の新潟県内における海上自衛隊艦艇の一般公開はこれで最後になりますが、興味のある方は是非とも来年の一般公開に運んでみてはいかがでしょうか。
それでは!
イベントの詳細は、自衛隊新潟地方協力本部のウェブサイトをご覧ください。
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)公式サイト
2017年07月24日
はつゆき型護衛艦 「まつゆき(DD-130)」 一般公開
みなさん、お久し振りです。
いよいよ夏本番が近づき、新潟でも猛暑が続いたかと思えば、急に豪雨になったりと、せわしない天候が続いております。
さて、この時期と言えば、個人的には海上自衛隊の県内寄港による乗艦見学が夏の風物詩となりつつあります。
この土日の両日、新潟市東区地内の新潟西港山ノ下埠頭において、海上自衛隊「はつゆき型」護衛艦の9番艦である「まつゆき(DD-130)」の一般公開が催されておりましたので、今年も見学に行ってきました。
昨年の同時期、新潟西港に寄港した「あさぎり型」護衛艦である「せとぎり(DD-156)」の前級となるのが今回寄港した「はつゆき型」護衛艦です。
現在、「まつゆき」は護衛艦隊直轄の第14護衛隊(かつて沿海域警備を担う地方隊籍にあった二桁護衛隊)に所属し、定係港は京都府に所在する舞鶴基地です。
「あさぎり型護衛艦」について詳しく知りたい方は、ウィキペディア「はつゆき型護衛艦」を参照願います。
昨年の「せとぎり」以上に生憎の雨模様。
最終日となる日曜日は午前(9時から11時30分)と午後(13時から15時30分)に艦内を見学できましたが、午前中は激しい雨が降るとの予報だったため、多少雨雲が薄くなる午後から訪問。
全長130m、基準排水量3,050トン(満載排水量4,200トン)
「せとぎり型」(全長137m、基準排水量3,500トン)の次級となる「むらさめ型」(全長151m、基準排水量4,550トン)以降の汎用護衛艦に比べると一回り小さく、欧米では駆逐艦(Destroyer)ではなくフリゲートに分類されるサイズですが、それでも間近で見ると、その大きさに圧倒されますね。
行楽期の日曜日ですが、かなりの悪天候のため、昨年の「せとぎり」寄港時に比べ、来訪した市民は疎らです。
ただ、マニアは雨が降ろうが槍が降ろうが関係ありませんので、甲板が人で溢れかえらない雨天は寧ろ好機ともいえます。
甲板上でも傘をさすことは許可されていますが、人混みの中では危険性が高いので、雨衣の着用をお勧めします。
また、一眼レフカメラなどをお持ちの方は、カメラ用のレインカバーも用意した方がいいでしょう。
本級は従来の対潜護衛艦(DDK)及び対空護衛艦(DDA)の後継として、これらの機能を統合する目的で誕生した現行の汎用護衛艦(DD)の第一世代艦型として設計され、1980年代に合計12隻が大量建造されました。
対艦ミサイル、対空ミサイル、対潜ミサイル、魚雷などの各種兵装をバランス良く配置し、加えてC4I機能や電子戦機能、艦載ヘリ運用機能をはじめ、現代の海上戦闘に対応できるシステム艦として長らく活躍しましたが、1番艦の建造から35年以上が経過した近年では老朽化に伴い年々除籍が進み、現在では練習艦に艦種変更された3隻を含めて5隻が残るのみです。
1986年3月竣工の「まつゆき」も今年で艦齢31年に達し、海上自衛隊の運用する汎用護衛艦(DD)では最も旧式の部類となります。
護衛艦隊直轄のDDとしては、「まつゆき」(護衛艦隊第14護衛隊)と「あさゆき」(護衛艦隊第13護衛隊)の2隻が残るのみです。
しかし、「まつゆき」を含めて後期建造型の3隻については今後も順次延命改修が施され、あと数年は護衛隊及び練習艦隊で活躍するようです。
「あきづき型」や「あさひ型」などの最新艦艇に比較すると性能面では見劣りはしますが、近年ではまずない大量建造によって昭和末期から平成初期までの間、長らく護衛艦隊の中核を成し、現在の海上自衛隊の発展史に欠かせない艦型であります。
いずれにしても、あと数年もすれば除籍が進み、その姿を見られなくなる可能性が高く、下手をすれば個人的に「はつゆき型」に乗艦できるのはこれが最初で最後かもしれず、今回の寄港は貴重な機会とも言えます。
▲上部構造物両舷に設置された高性能20mm機関砲(ファランクス CIWS Mk.15 mod.2 ブロック0)の機関部(M61 バルカン)
▲米軍のMk32短魚雷発射管(324mm口径)を国内でライセンス生産した68式3連装魚雷発射管(HOS-301)
昨年の「せとぎり」では甲板上が人で溢れかえっていましたが、14時を過ぎたころには艦上見学者は疎らに・・・。
甲板上では見学者が滑って転倒しないように、自衛官がせっせと雨水をはいていました。
▲本艦の主砲であり、優れた対空戦闘能力を有する62口径76ミリ単装速射砲(オート・メラーラ 76mm コンパクト砲)
猛烈な雨のため、レンズもビショビショです・・・。
マニアはともかく、一般人には厳しい環境です。
▲62口径76ミリ単装速射砲薬砲
▲前甲板に設置された艦載用対潜ミサイルシステムである74式8連装アスロック((Anti Submarine ROCket)発射機
当日は艦橋など艦内見学の実施はなく、甲板上を一周するシンプルな順路でした。
また、哨戒ヘリは展示されていましたが、ヘリ甲板やハンガーへの立ち入りもできなかったため、外から見上げるかたちとなりました。
▲後部煙突直前から両舷に向けて発射するように設置されたハープーンSSM(艦対艦誘導弾) 4連装発射筒
▲本艦は両舷に4連装発射筒を1基ずつ備え、最大8発のハープーンSSMを運用可能
▲艦尾甲板に設置された個艦防空用のシースパロー短SAM(短距離艦対空誘導弾) 8連装発射機
▲訓練弾が装填されているキャニスター
後部甲板から望む信濃川河口。
忘れてましたけど、磯の香もしませんし、まだここは川なんですよね。
ここから1kmほど北上すると日本海に注ぎます。
十日町あたりの上流の水は透明でキレイなんですけど、なんか信濃川河口の水はいつも茶色く濁っている印象があります。
▲艦載ヘリは米軍の哨戒ヘリであるSH-60Bシーホークを三菱重工業がライセンス生産したSH-60Jで、後部のヘリ格納用ハンガーに1機を格納可能
甲板から埠頭を眺めます。
晴天であれば見学者の列が並んでいると思うのですが、今日は待ち時間ゼロで乗艦できました。
埠頭には毎度お馴染みとなった陸上自衛隊新発田駐屯地に所在する第30普通科連隊から82式指揮通信車、高機動車、軽装甲機動車、偵察オートバイが出張展示していました。
雨の中、お疲れ様です。
「まつゆき」乗員の皆様、当日はご丁寧に対応していただき、ありがとうございました。
皆様のご健勝とご活躍をお祈りしております。
なお、新潟西港での艦艇寄港は終了しましたが、8月26日(土)、27日(日)の両日には佐渡市両津港に多用途支援艦「ひうち」、9月2日(土)、3日(日)の両日には長岡市寺泊港にミサイル艇「はやぶさ」、「うみたか」が寄港予定で、艦内見学が可能です。
艦艇に興味のある方は、是非とも夏の思い出づくりに足を運んでみてはいかがでしょうか。
それでは!
イベントの詳細は、自衛隊新潟地方協力本部のウェブサイトをご覧ください。
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)公式サイト
2016年09月29日
ひゅうが 出港
9月24日と25日の両日、 新潟県北蒲原郡聖籠町の新潟東港において自衛隊・消防関係機関が参加した「海上防災フェスタ」が開催され、一般公開されたヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」の艦上は多くの見学者で賑わいました。
2日間の一般公開を終えた「ひゅうが」は、最終日の翌日である9月26日午前中に新潟東港を出港し、定係港である舞鶴基地に向かいました。
どうしても「ひゅうが」の動いている姿を見たかったので、月曜の午前中から張り込み、無事に出港を見届けることができました。
撮影に夢中になっていたところ、どこからか静かな視線を感じます・・・。
・・・めっちゃ見られてます。
不審者じゃないですよ~。
互いに望遠レンズ越しに目が合ったので、挨拶代わりに手を振りました。
( ゚д゚)ノシ
おお・・・ちゃんと返答してくれました。
少し感動です。
航路お気をつけて、お帰り下さい!
イベントの詳細は、自衛隊新潟地方協力本部のウェブサイトをご覧ください。
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)公式サイト
2016年09月24日
ひゅうが in 新潟東港
みなさん、こんにちは!
本日から明日までの間、 新潟県北蒲原郡聖籠町の新潟東港において自衛隊・消防関係機関が参加した「海上防災フェスタ」が開催されます。
本イベントの最大の目玉である海上自衛隊の「ひゅうが型」ヘリコプター搭載護衛艦の一番艦である「ひゅうが(DDH-181)」の一般公開に早速行ってきました。
詳細な記事は後日として、とりあえず第一報で会場の雰囲気をお伝えするため画像のみ掲載します。
会場駐車場には県外ナンバーの車両も多数集結。
開場時間には既に満車状態で、艦内見学には長蛇の列が伸びていました。
手短に本日の感想を一言で表すと・・・
デカい(全長197m・全幅33m・満載排水量19,000トン)
広い(ヘリコプター最大積載機数11機・最大3機が同時発着可能)
高い(全高48m・建造費1,200億円)
よってカメラの画角に収まらない・・・(広角レンズ必須)
明日の夕方まで一般公開されているので、この感動を味わいたい方は是非足を運んでみてください。
なお、「ひゅうが型護衛艦」の詳細については、ウィキペディア「ひゅうが型護衛艦」を参照願います。
イベントの詳細は、自衛隊新潟地方協力本部のウェブサイトをご覧ください。
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)公式サイト
2016年09月10日
新潟県警・陸上自衛隊 柏崎刈羽原発において対テロ合同訓練
平成27年10月29日、新潟県柏崎市と刈羽郡刈羽村に所在する東京電力柏崎刈羽原子力発電所において、新潟県警察と陸上自衛隊による初めての合同対テロ訓練が実施されました。
訓練では、原発周辺に重武装の武装工作員(ゲリラ・コマンドウ)が上陸したとの情報を得て、警察力のみでの対応が困難と判断した総理大臣が自衛隊法に基づく治安出動を発令した状況を想定。
県警機動隊所属の銃器対策部隊の隊員約60名と上越市高田駐屯地に所在する第12旅団第2普通科連隊所属の隊員約70名が訓練に参加しました。
我が国に武装工作員が上陸し、自衛隊が治安出動して対処するという想定は、十数年前に公開された「宣戦布告」という映画(原作は小説)を想起させます。
この作品では福井県敦賀半島に北朝鮮の潜水艦が座礁し、自動小銃やRPGなどで完全武装の工作員11名が上陸したという設定で、警察力での対処が困難と判断した政府により、自衛隊法に基づく治安出動命令を受けた自衛隊が掃討作戦を実施します。しかし、法律上の武器使用の問題点や政府関係者の弱腰な姿勢などから現場では多数の犠牲者が生まれ、有事における現行法の脆弱性を問題提起したことで大きな反響を呼びました。
なお、この作品自体も1996年に実際に発生した北朝鮮による韓国への潜水艦侵入事件「江陵(カンヌン)浸透事件」をモデルとしており、その設定は決して荒唐無稽なものではなく、工作員の上陸を許していた我が国においても現実に十分起こり得る事態といえます。
さて、せっかくなので自衛隊の治安出動について、おさらいしたいと思います。少し長くなるので、興味のない方はスルーして下さい。
この治安出動の根拠法令は、防衛出動などを定めた自衛隊法第六章「自衛隊の行動」の条文であり、
(命令による治安出動)
第七八条 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
とされています。
防衛出動が我が国に対する明白な侵略行為への対処のため、自衛権に基づく自衛隊の幅広い「武力行使」を認めたものであるのに対し(国際的に見れば事実上の戦争ないし紛争状態)、国内の治安維持を目的とした治安出動では自衛官による必要な「武器の使用」が認められているだけです。
元来、治安出動は1960年代に活発化した安保闘争運動や極左暴力集団による破壊活動の深刻化を受け、警察力では対処できない規模にまで拡大した暴動や騒擾への自衛隊出動を想定していましたが、現在では今回の訓練想定のように武装工作員(ゲリラ・コマンドウ)によるテロやゲリラ活動への対処も大きな目的となっています。
そして治安出動を命ぜられた自衛官については、自衛隊法第七章「自衛隊の権限」において
(治安出動時の権限)
第八九条 警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)の規定は、第七十八条第一項又は第八十一条第二項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務の執行について準用する。この場合において、同法第四条第二項中「公安委員会」とあるのは、「防衛大臣の指定する者」と読み替えるものとする。
2 前項において準用する警察官職務執行法第七条の規定により自衛官が武器を使用するには、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条又は第三十七条に該当する場合を除き、当該部隊指揮官の命令によらなければならない。
と規定され、警察官の職務権限等について定めた警察官職務執行法(警職法)上の条項全てが自衛官に準用されます。
つまり、武器の使用についても警職法第7条(武器の使用)の規定が準用され、
・凶悪犯人の逮捕又は逃走の防止
・公務執行に対する抵抗の抑止
・正当防衛若しくは緊急避難
のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、初めて武器の使用が許されるのです。
なお、自衛隊法の規定により、この武器の使用については、正当防衛若しくは緊急避難を除いては、部隊指揮官の命令によらなければ実行することができません。
また、治安出動時の自衛官の権限について、警職法上の武器の使用についての条項のみに注目されがちですが、法規上は警職法の全ての条項が準用されると規定しているわけですから、
・職務質問
・要救護者の保護
・避難等の措置
・犯罪予防のための警告・制止
・職務執行のための立入
についても自衛官にその権限が与えられ、刑事訴訟法上の司法警察職員がもつ司法警察権などを除き、治安出動中の自衛官は警察官に準じた行動ができることになります。
裏を返せば、警察力で対処できない事態への治安出動を命じられても、その武器使用については厳格な「警察比例の原則」に従う必要があります。
俗に治安出動命令を受けた自衛官を「軍服を着た警察官」と比喩するのはこのためです。
冒頭で紹介した「宣戦布告」において、問題となっていたのは正に警職法に準じた武器使用の規定でした。
ざっくりと自衛隊の治安出動の概要について述べましたが、防衛出動と同じく自衛隊発足から今日に至るまで自衛隊に治安出動が発令されたことは一度もありません。
それは、治安出動による自衛隊の行動が諸外国から見れば軍事力を国内の治安維持に投入するのと同義であり、国家が自国の非常事態を認めたことになるからです。
自衛隊の治安出動は、警察力の限界を超えた国内治安維持の最後の砦なのです。
今回の想定のような現実の自衛隊の治安出動に際しては、公共の秩序の維持という共同目的を達成するため、情報交換や脅威への共同対処をはじめとして、警察や関係機関との協力体制が必要不可欠です。
単純な武力では自衛隊が圧倒しますが、平素から原発の警戒警備にあたる原子力関連施設警戒隊を構成する銃器対策部隊は、原発警備の訓練や教養を受けたプロフェッショナルといえ、原発警備については門外漢の自衛隊が学ぶことも多いはずであり、その逆も然りです。
2011年に発生した福島第一原発事故は、原発の構造的脆弱性を世界に露呈すると同時に、冷却用の電源装置さえ破壊すれば、少数精鋭の工作員だけでも原子炉をメルトダウンさせ、国家を混乱に陥れることが可能なことを世界中のテロリストに証明してしまいました。
特に日本海側に面して長大な海岸線を有し、世界最大規模の原発を擁する我が県では、このような訓練を今後も積み重ね、世界的な課題となっている原発テロへの脅威など、来るべき有事に備える必要があります。
昨年のニュースになりますが、今後も過去全国で行われた同種の公開訓練については、自身の備忘録と資料化を兼ねて随時ご紹介したいと思います。
▲県機動隊所属の銃器対策部隊からは約60名の隊員が参加。平素から原発の警戒警備にあたる原子力関連施設警戒隊も同隊の隊員から選抜されている。
出動服の上から全国の銃器対策部隊でも導入されている防弾前垂れと防弾腕帯付きの突入型防弾衣を着用、頭部の防弾帽は防弾面付きのジェットタイプだ。
特殊銃と呼称されるH&K社製MP5Fには、Aimpoint社製COMP M2ダットサイトとB&T社製TL-99タクティカルライト付きハンドガードが装着されている。
他の都道府県警察では、さらに腰周りに貸与品の帯革を着用して警棒や手錠、拳銃を携帯することが珍しくないが、今回の参加部隊は帯革を着用していない。
出動服の上から全国の銃器対策部隊でも導入されている防弾前垂れと防弾腕帯付きの突入型防弾衣を着用、頭部の防弾帽は防弾面付きのジェットタイプだ。
特殊銃と呼称されるH&K社製MP5Fには、Aimpoint社製COMP M2ダットサイトとB&T社製TL-99タクティカルライト付きハンドガードが装着されている。
他の都道府県警察では、さらに腰周りに貸与品の帯革を着用して警棒や手錠、拳銃を携帯することが珍しくないが、今回の参加部隊は帯革を着用していない。
▲上越市の高田駐屯地に所在する東部方面隊隷下第12旅団第2普通科連隊から約70名の隊員が参加。柏崎刈羽原発は同隊の防衛警備担当地域である。
殆どの隊員が防弾チョッキ2型改を着用しているが、一部の隊員は2014年ころから配備が始まったばかりの最新装備である防弾チョッキ3型を着用している。
88式鉄帽に加え、市街地戦闘を想定してニーパッドとエルボーパッドを装着。主武装は89式5.56mm小銃だが、一部士官のみ9mm拳銃を携行していた。
殆どの隊員が防弾チョッキ2型改を着用しているが、一部の隊員は2014年ころから配備が始まったばかりの最新装備である防弾チョッキ3型を着用している。
88式鉄帽に加え、市街地戦闘を想定してニーパッドとエルボーパッドを装着。主武装は89式5.56mm小銃だが、一部士官のみ9mm拳銃を携行していた。
▲整列した自衛隊員と銃器対策部隊員。治安出動を命じられた自衛官には警察官職務執行法が準用されるが、警察官のように刑事訴訟法上の司法警察権
を行使することはできない。従って、私人でも可能な現行犯逮捕を除き、被疑者(暴徒やテロリスト)の逮捕拘束に関する擬律判断は、警察官(司法警察職員)
である銃器対策部隊員が行う必要がある。警察と自衛隊の相互運用上の理解を深めるこのような共同対処訓練は、現実の治安出動に際して必要不可欠だ。
を行使することはできない。従って、私人でも可能な現行犯逮捕を除き、被疑者(暴徒やテロリスト)の逮捕拘束に関する擬律判断は、警察官(司法警察職員)
である銃器対策部隊員が行う必要がある。警察と自衛隊の相互運用上の理解を深めるこのような共同対処訓練は、現実の治安出動に際して必要不可欠だ。
▲陸上自衛隊で唯一、空中機動力を高めた即応近代化旅団である第12旅団は、ヘリコプターを駆使したヘリボーン戦術による緊急展開能力を重視している。
今回の訓練では、北宇都宮駐屯地に所在する第12ヘリコプター隊第1飛行隊所属のUH-60JAブラックホークが銃器対策部隊の人員輸送を実施した。
今回の訓練では、北宇都宮駐屯地に所在する第12ヘリコプター隊第1飛行隊所属のUH-60JAブラックホークが銃器対策部隊の人員輸送を実施した。
▲降着したUH-60JAから完全武装した銃器対策部隊の隊員8名が一斉に飛び降りる。迷彩塗装の自衛隊機から、機動隊員が現れるのは異色の光景だ。
1機40億円近い高額から陸上自衛隊における保有数も40機に満たないUH-60JAを使用して訓練ができるのは、県警にとっても貴重な機会だろう。
1機40億円近い高額から陸上自衛隊における保有数も40機に満たないUH-60JAを使用して訓練ができるのは、県警にとっても貴重な機会だろう。
▲ヘリを離れた8名の隊員は隊列を組み、全方位を警戒しながら駆け足で車両待機位置まで移動する。
▲伸縮式銃床が伸ばされたMP5は、射撃待機姿勢のロー・レディーないしハイ・レディーの位置で構えられ、脅威があれば直ちに制圧射撃が可能な状態だ。
▲防弾帽の防弾面は跳ね上げられているが、これはMP5の銃床を使用した頬付け姿勢での精密射撃を直ちに行えるよう想定したためと思われる。
▲防弾前垂れや防弾腕帯の標準装備された近接戦闘向け突入型防弾衣の導入により、各都道府県警察が保有する銃器対策部隊の印象は大きく変わった。
近接戦闘に必須であるダットサイトやタクティカルライトを装着したMP5の運用もあって、装備だけを見れば諸外国の警察特殊部隊と大きな差異はない。
近接戦闘に必須であるダットサイトやタクティカルライトを装着したMP5の運用もあって、装備だけを見れば諸外国の警察特殊部隊と大きな差異はない。
▲側道に待機中の機動隊の大型人員輸送車に足早に乗車する隊員。乗車口付近では、部隊の乗車完了まで2名の隊員がMP5を構えて周囲を警戒する。
▲完全武装の銃器対策部隊員を乗せた人員輸送車は、原発施設に向けて直ちに発進する。
▲自衛隊機による人員輸送訓練の詳細想定は報道されていないが、実際の治安出動では原発に常駐している原子力関連施設警戒隊の増援部隊として、
新潟市から銃器対策部隊を自衛隊機で輸送する想定が考えられる。当然、県警もヘリを運用しているが、完全武装の隊員を複数輸送可能な中型機は2機
のみで、定期整備による運航停止や人命救助任務による出動を考慮すると常に県警のヘリが使用できるとは限らず、自衛隊機という選択肢も必要となる。
新潟市から銃器対策部隊を自衛隊機で輸送する想定が考えられる。当然、県警もヘリを運用しているが、完全武装の隊員を複数輸送可能な中型機は2機
のみで、定期整備による運航停止や人命救助任務による出動を考慮すると常に県警のヘリが使用できるとは限らず、自衛隊機という選択肢も必要となる。
▲県警のパトカーが自衛隊車両を先導する訓練も実施された。道路交通法施行令により、緊急自動車である警察用自動車に誘導されている自動車は
緊急自動車とみなされ、緊急自動車指定を受けていない自衛隊車両でも緊急走行が行えるため、治安出動においても迅速な現場臨場が可能となる。
緊急自動車とみなされ、緊急自動車指定を受けていない自衛隊車両でも緊急走行が行えるため、治安出動においても迅速な現場臨場が可能となる。
▲装甲車両として、第2普通科連隊所属の軽装甲機動車及び82式指揮通信車が参加した。
▲自衛隊車列の後続は偵察オートバイが並び、車列の殿を緊急走行が可能な機動隊の特型警備車が務めることで、緊急走行の完結性を保っている。
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)公式サイト
2016年07月25日
救難隊の緊急自動車
みなさん、こんにちは!
数日続いておりました護衛艦「せとぎり」ネタも最後です(多分・・・)。
当日、会場で珍しい緊急自動車を見つけたので、おまけ程度にご紹介したいと思います。
緊急自動車マニア以外の方はスルーして下さいね。
車体の表記を見てのとおり、航空自衛隊入間基地の分屯基地である新潟分屯基地所在の航空救難団新潟救難隊の車両です。
当日は新潟救難隊所属の捜索救難機(U-125A及びUH-60J)が護衛艦上空において展示飛行を行っており、これの現地連絡役として救難隊員が現地入りしていたようです。
車種は日産自動車が製造するミドルサイズのクロスオーバーSUVであるエクストレイル。
パトカーや消防車、血液運搬車からJRの保線作業車両まで他の緊急自動車にも数多く採用されている定番の人気車種です。
塗色は緊急自動車としては珍しい特徴的な青色ですが、捜索救難機と同じ洋上迷彩を意識しているのでしょうか・・・。
パトカーなどと同じく、スピーカー付きのV字型赤色灯(散光式警光灯)をルーフ上に装備し、緊急走行が可能となっています。
以下蛇足ですが、恥ずかしながら空自の救難隊が緊急指定自動車を運用している事実をこのとき初めて知りました・・・。
いえ、消防と同じように人命救助という重大任務から“航空救難最後の砦”である空自救難隊での緊急指定自動車の運用は当然だと思います。
しかし、同種の海上航空救難任務を遂行する海上保安庁が陸上において緊急車両の運用を許されていないという有名な話を聞いていたので、自衛隊の航空救難隊だけに認められているのが意外だったのです。
海上保安庁では有名な特殊救難隊(SRT)や特殊警備隊(SST)ですら緊急指定自動車を運用していません。
巡視船や航空機を運用していても、特殊救難隊や各管区の潜水士などが陸上経路で救助現場まで急行することは珍しくなく、実務上の弊害から警察庁への再三の申請にも関わらず緊急自動車運用性の必要性が認められず、却下されているようです。
一刻一秒を争う救命現場に赴く際でも、緊急走行で急行する消防の救助隊を尻目に、海上保安庁の車両は一般車両と同様に信号や制限速度を遵守しなければならないのです。
これも実におかしな話です。
東日本大震災をはじめ近年の大規模災害現場では、海保も消防や警察、自衛隊と同じように陸上における航空救難活動を数多く実施しています。
少し話が脱線しましたが、空自の救難隊と同じく、一刻も早い海保救難隊運用車両の緊急自動車指定が望まれます。
それでは!
イベントの詳細は、自衛隊新潟地方協力本部のウェブサイトをご覧ください。
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)公式サイト
2016年07月24日
最近の陸上自衛隊普通科隊員装備 #02
先日の護衛艦「せとぎり」一般公開イベントにおいて装備展示を行っていた陸上自衛隊第12旅団第30普通科連隊の皆様に引き続きフォーカスをあてていきます。
なお、前回の記事はこちらを参照願います。
▲ムック・・・ではなく、全国の普通科連隊に創設されている狙撃班の隊員がギリースーツを着用し、会場内を歩いていた。ギリースーツに対する一般人の馴染みは薄く、その近寄りがたい存在感から興味があっても遠巻きに眺める人が多い。
▲防弾チョッキなど装身具の展示コーナーを担当していた方の装備。2014年ころから配備が始まった最新装備である防弾チョッキ3型の上からBHI(ブラックホーク)社製のH型ショルダーハーネスを装着し、腰部の弾帯を懸架している。
▲懸架された弾帯の正面には小銃用の弾倉ポーチ、左腰部にはロールアップ式のダンプポーチが装着されている。グローブは米軍など欧米のタクティカルユースで愛用者の多いMECHANIX WEAR(メカニックス・ウェア)製だ。
▲2003年のイラク派遣を契機に製作された防弾チョッキ2型にクリック・リリース分解機能を追加した防弾チョッキ2型改。当時米軍で採用されていた最新のPALSウェビング・テープ対応のIBA(インターセプター・ボディー・アーマー)に倣い、ベストの前後面に各種モジュラー・ポーチの装着に対応した日本独自規格のモジュラー・ウェビング・テープを設けている。
▲通常は両肩部分を防護するショルダー・アーマーが装着されている部分だが、今回の展示では珍しく取り外されていた。両肩部分には滑り止め加工の施されたショルダー・パッドと肩当てした銃床を固定するための小型ストッパーが設けられ、ショルダー・パッドの特徴的なデザインは、ショルダー・アーマーが内蔵式となった防弾チョッキ3型にも引き継がれている。
▲旧来の66式鉄帽の後継として、1988年に制式採用された国産の軍用バリスティック・ヘルメットである88式鉄帽。旧来の66式鉄帽が合金製だったのに対し、当時米軍で採用されたばかりの次世代軍用バリスティック・ヘルメットの先駆けであるPASGT(地上部隊個人防護システム)ヘルメットに倣い、88式鉄帽も防弾繊維を合成樹脂で積層加工した軽量な複合素材で成形されている。PASGTヘルメットに比べ、後頭部や側頭部が浅めなのが外観上の特徴だ。2013年ころからは帽体の形状はそのままに成形素材の軽量化を図り、2点式であった顎紐を安定性の高い4点式に変更するなどした改良型の88式鉄帽2型が配備されている。なお、88式鉄帽の防弾性能については一切公表されていないが、諸外国の軍用ヘルメットと同等(大抵の拳銃弾への抗弾能力を有するNIJ規格レベルIIIA)と推測される。
▲インナーデザインは米軍が採用していたPASGTヘルメットに近く、ハンモック式のヘッドサスペンションを採用している。2点式顎紐の着脱には金属板を用いた日本独自の固定方式が用いられているが、レプリカでは省略されることが多い。
▲偵察用や連絡用に用いられる排気量250ccのオフロード用オートバイであるカワサキKLX250も展示されていた。
▲基本的な仕様は市販車と同じだが、ステップ前方の堅牢なガードや車体後部の無線機搭載用ラックなど細部が異なる。
第30普通科連隊の皆様、当日は終始ご丁寧に対応して頂き、ありがとうございました。
皆様のご健勝とご活躍をお祈りしております。
それでは!
イベントの詳細は、自衛隊新潟地方協力本部のウェブサイトをご覧ください。
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)
架空私設特殊部隊 Team JP-SWAT
JP-SWAT on YouTube
2016年07月23日
最近の陸上自衛隊普通科隊員装備 #01
先日、一般公開された護衛艦「せとぎり」ネタ第3弾でございます。
今回はもはや海自は関係なく、埠頭において展示を行っていた陸上自衛隊にフォーカスをあてたいと思います。
当日は陸上自衛隊新発田駐屯地に所在する第12旅団隷下の第30普通科連隊から、高機動車、軽装甲機動車、82式指揮通信車、偵察オートバイが出張展示を行いました。
また、防弾チョッキや88式鉄帽などの個人装備の試着体験ブースなども開設。
装甲車の前には、完全装備の普通科隊員の皆様が並んでおり、見学者からの質問や記念撮影などに快く応じてくれました。
中でも気合の入った装備を身にまとう隊員さんに注目し、個人装備を紹介したいと思います。
▲戦闘装着セットの普及が本格化した20年ほど前に比べ、普通科隊員の個人装備の様相は大きな進化を遂げており、海外派遣や米軍との共同訓練などを通じ、先進各国の歩兵装備に比肩する実戦的なブラッシュアップが見て取れる。
▲旧来の66式鉄帽の後継として、1988年に制式採用された国産の軍用バリスティック・ヘルメットである88式鉄帽。旧来の66式鉄帽が合金製だったのに対し、当時米軍で採用されたばかりの次世代軍用バリスティック・ヘルメットの先駆けであるPASGT(地上部隊個人防護システム)ヘルメットに倣い、88式鉄帽も防弾繊維を合成樹脂で積層加工した軽量な複合素材で成形されている。PASGTヘルメットに比べ、後頭部や側頭部が浅めなのが外観上の特徴だ。2013年ころからは帽体の形状はそのままに成形素材の軽量化を図り、2点式であった顎紐を安定性の高い4点式に変更するなどした改良型の88式鉄帽2型が配備されている。特徴的な4点式顎紐から本品も一見すると改良型の2型に見間違うが、支給の開始されたばかりの2型の更新速度は遅く、当分の間は一線部隊でも従来型が主力となる本品も従来型の2点式顎紐を隊員が個人的に購入した市販品の4点式顎紐へ換装し、快適性を高めたカスタム品だ。
▲88式鉄帽に並び、戦闘装着セットの中核であった戦闘防弾チョッキの第三世代である最新の防弾チョッキ3型を着用し、その上から私物のチェストリグを装着している。2014年ころから配備の開始された防弾チョッキ3型は、陸上自衛隊のイラク派遣を契機に製作された防弾チョッキ2型の次世代型であり、モジュラー・ウェビング・システムの改良や軽量化など快適性の追求をはじめ、先進各国で採用されている軍用ボディーアーマーに倣った実戦的な改良が施されている。
▲両肩部分には滑り止め加工の施された特徴的なショルダーパッドが装備され、銃床を肩付けした際に銃床を固定する。小型のストッパーも設けられている。国章などを貼付するために標準で設けられたベルクロスペースにも注目したい。
▲戦闘服は支給の迷彩服3型ではなく、米軍などで普及しているタイプの私物の新迷彩柄コンバットシャツであり、通常の戦闘服に比べて通気性や発汗性に優れているため、ボディーアーマー着用時の快適性が高いのが特徴だ
▲防弾チョッキ3型の背面には、米軍などで採用されている背負い式のハイドレーション・システムを携行している。従来の水筒に比べ、給水チューブを利用することで戦闘状況などの高リスク環境下でも迅速な水分補給が可能だ
▲グローブは米軍など欧米のタクティカルユースで愛用者の多いMECHANIX WEAR(メカニックス・ウェア)製だ。元々はカーレース向けの作業用グローブであったが、保護性能を維持しながら繊細な作業を可能とする素肌に近いフィット感やフィーリングの高さを有しているため、軍事や産業など分野を問わず様々な業種に普及している
▲チェストリグの前面に装着されている弾倉ポーチは、PPM(パトリオット・パフォーマンス・マテリアル)社製だ。モジュラーポーチの装着に対応した防弾チョッキ2型や3型が全面普及したにも関わらず、なぜチェストリグを愛用する隊員が多いのかは、実のところ事務的な理由が強いようだ。個人貸与された他の個人装具と異なり、防弾チョッキは火器類と同じ部隊での定期的な員数点検が義務づけられている一括管理品扱いであるため、訓練終了後は防弾チョッキを保管庫に格納しなければならない。このため、個人がいつでもポーチ類を自由にセットアップでき、訓練時に防弾チョッキの上から簡単に重ね着できるチェストリグの愛用者が多いのだという。
▲携行している弾倉は、89式小銃の標準弾倉ではなく、米軍に支給されているものと同じSTANAG弾倉である。89式小銃は米軍との相互運用性を考慮してNATO標準のSTANAG弾倉の運用が可能な設計だが、米軍支給のSTANAG弾倉がアルミ製のため軽量で錆びにくいのに対して、89式小銃の標準弾倉はスチール製で強度は高いが重量もあり錆びやすいため、近年は米軍との共同訓練などで入手したSTANAG弾倉を代替品に利用する隊員が多いようだ。
▲ライトポーチには、タンカラーのLEDライトであるSUREFIRE社製G2Lが収納されている。
▲米海兵隊に支給されているモデルと同じタンカラーのCSM社製ダンプポーチ。
▲アイウェアは米軍でも愛用者の多いRevision Military(レビジョン・ミリタリー)社製。
▲フットウェアも支給品の半長靴ではなく、より機能性が高く履き心地のよい私物のジャンブルブーツだ。
▲自衛隊初の国産装輪装甲車である82式指揮通信車(CCV)。普通科連隊では本部管理中隊に配備されている。
▲歩兵機動車の一種であり、普通科部隊の足となる軽装甲機動車(LAV:Light Armoured Vehicle)。上部ハッチのターレットに設けられた防楯付き銃架には、分隊支援火器である5.56mm機関銃MINIMIを装着運用することが可能だ。また、上部ハッチからは普通科中隊の対戦車小隊等に配備されている01式軽対戦車誘導弾(LMAT)の射撃運用も行える。
第30普通科連隊の皆様、当日は終始ご丁寧に対応して頂き、ありがとうございました。
皆様のご健勝とご活躍をお祈りしております。
それでは!
イベントの詳細は、自衛隊新潟地方協力本部のウェブサイトをご覧ください。
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)
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2016年07月18日
護衛艦せとぎり立入検査隊(MIT) 2016
先日、一般公開された護衛艦「せとぎり」ネタ第2弾でございます。
艦上では各種兵装など様々な装備資機材が公開されていましたが、後部のヘリ甲板で特殊な方々のブースを発見。
各護衛艦ごとに編成されている護衛艦付き立入検査隊(MIT:Maritime Interception Team)の方々です。
主砲やミサイルよりも個人装備に目がいってしまうのは、特殊部隊好きの悲しいサガ。
個人装備品の展示に加え、防弾チョッキの試着体験などもでき、細かな質問にも快く丁寧に答えて頂きました。
公開されていた立入検査隊の装備について、紹介したいと思います。
護衛艦付き立入検査隊とは、簡単にいうと各国海軍で行われている臨検部隊の海上自衛隊版で、部内では「立検隊」などと呼ばれています。
我が国では平成12年に制定された「周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律(船舶検査活動法)」に基づき、海上自衛隊による一般船舶に対しての臨検行為をはじめとした海上阻止行動(MIO)が可能となりました。
各護衛艦ごとに編成された立検隊は、普段は各職種に従事している乗員から選抜されています。
主に複合艇でのボーディングによって当該船舶に乗船し、積荷の検査や目的地の確認などを実施することから、選抜された隊員は海上阻止行動に関する専門教育を受けています。
海賊やテロリストの資金源ともなる麻薬密輸などの容疑船に対しても実施される立入検査活動は、当該船舶の乗員が武装している場合もあることから、立検隊は防弾チョッキや防弾ヘルメットなどの防弾装具を着用し、自衛用に89式小銃や9mm機関拳銃、9mm拳銃などで武装しています。
臨検という海上警察活動を行う性格上、立検隊の個人装備には被疑者拘束時に使用する手錠や警察比例の原則に従った特殊警棒などが含まれ、その姿は一見すると海上における警備警察業務を担う海上保安庁の特別警備隊に酷似しています。
なお、被服や防弾装具などの官給品を除き、ホルスターやベルトなどの各種デューティーギアは、私費で購入している方が多く、隊員によって細かな装備が異なるのはこのためです。
隊員さんによると「ベルトやホルスターなども支給品はあるが、正直使い勝手が悪いので、どうしても私費で納得のいく製品を購入することになる」とのことで、この点は陸上自衛隊の市街地戦闘装備の事情に近いものがあるようです。
▲立入検査時に着用する防弾チョッキは、落水時に着用者が沈まないよう浮力機能を有している
▲隊員に貸与される9mm拳銃(P220)に対応したSAFARILAND社製の6005サイホルスターのシュラウドには、6PやG2など1インチの直径を有するライトに対応したSUREFIRE社製V70スピードホルスターが装着されている。使い捨ての簡易手錠として使用されるプラスチック製のタイラップをデューティーベルトに挟んでいる点も注目したい
▲左半身にはBLACKHAWK社製のレッグシュラウドを装着し、同社製のオープントップ3連ピストルマグポーチを固定。腰部背面に装着された大型のダンプポーチは、使用済みの空弾倉を素早く投入し、一時的に携行保持するためものだ
▲机上展示されていたデューティーベルトキット。ホルスター、マグポーチ、ダンプポーチなど基本的な構成は同様だ
▲興味深いのは他の隊員の多くが防弾チョッキに干渉しないサイホルスターを装着しているのに対し、ベルトマウントのヒップホルスター(BLADE-TECH社製WRS Level II TMMSデューティーピストルホルスター)を装着している点だ。同ホルスターは、TMMS(タクティカル・モジュラー・マウントシステム)に対応しており、ネジを使用せずホルスター本体を着脱可能で、同社のテックロックやMOLLEアダプターなどを用いることで、体の様々な位置にホルスターを装着できる
▲現行の警察官などに貸与されているタイプと同様の国産手錠は、軽量なアルミニウム合金製だ
▲ロッキング方式に日本独自の複雑なロータリー・ロッキング方式を採用しており、外国製手錠に比べると一回り大きい
▲現行の2段式特殊警棒が採用される以前、警察官に貸与されていたタイプと同様の国産の3段式特殊警棒。専用のナイロン製警棒ケースに収納し、防弾チョッキの前部や腰部のデューティーベルトに装着している
▲警棒のシャフトを伸張した状態。先端のシャフトを握って半回転させることでロックが解除され、シャフトを伸縮できる。本体の鋼材は手錠と同じく軽量なアルミニウム合金製で、多種多様な装備品を携行する隊員の負担を軽減している。その反面、剛性の高いスチール製の警部に比べて耐久性の面では劣るデメリットもある
▲個々人が携行するトランシーバーと骨伝導方式を採用したタクティカルヘッドセット。骨伝導方式は受信された音声情報を機械的に微弱振動へ変換して、その振動を頭蓋骨を通した骨導音によって鼓膜を介さず直接的に聴覚神経に伝搬する。このため、射撃音をはじめとした爆発音やエンジン音など、外部の騒音が著しい場合であっても骨導音による確実な音声伝達が可能だ。さらに空気伝導を利用するスピーカーシステムとは異なり、骨伝導方式のヘッドセットは外耳周辺を完全に開放することが可能なため、 活動環境における聴覚での状況把握にも支障をきたさず、また長時間着用時の聴覚疲労のストレス軽減にも加味する。当日の展示では実際にヘッドセットを着用させてもらい骨伝導による音声受信を体験できた
▲特に意外だったのはトランシーバーが国産機種ではなく、欧米の通信機器大手であるMOTOROLA社製であったことだ。採用機種は1990年代後半に軍・警察などの政府機関及び公共安全組織向けに開発された個人携帯用デジタル無線機である“ASTRO XTS 3000R”で、標準仕様モデルよりも防水性能などの耐久性を強化し、水上活動組織や特殊部隊をはじめとして、より過酷な環境での運用を想定した最上位の“Rugged(ラギッド):高耐久”モデルであることが分かる
▲高耐久仕様のRモデルは、水深約1.8mに4時間放置しても正常機能する驚異的な防水性能を有しているため、対テロ特殊部隊や警察SWATチームによる全天候下における特殊作戦をはじめ、長時間の軍事作戦にも耐える設計だ
▲艦内を巡っていると士官の方も艦上での業務連絡用に“XTS 3000R”を使用しているのを確認できた。立入検査隊などの特殊な執行部隊だけでなく、海自では業務用無線機として広く採用されているようだ
▲ボーディングチームの着用するキャップ
当日の展示装備品は以上になります。
専門技能と特殊装備を有し、少数精鋭で特殊作戦を敢行する立入検査隊は、広義には特殊部隊の一種であり、今回のようなイベントを通じて一般人が触れ合える最も身近な“特殊部隊”といえます。
せとぎり立入検査隊の皆様、終始ご丁寧に対応して頂き、ありがとうございました。
皆様のご健勝とご活躍をお祈りしております。
それでは!
イベントの詳細は、自衛隊新潟地方協力本部のウェブサイトをご覧ください。
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2016年07月17日
あさぎり型護衛艦 「せとぎり(DD-156)」 一般公開
みなさん、こんにちは!
見出しのとおり、本ブログで初めてとなる装備品以外のネタでございます。
本日から明日までの間、新潟市東区地内の新潟西港山ノ下埠頭において、海上自衛隊の「あさぎり型」護衛艦である「せとぎり(DD-156)」の一般公開が催されておりましたので、早速見学に行ってきました。
事前の広報では、「はたかぜ型」ミサイル護衛艦の「しまかぜ(DDG-172)」も同時入港する予定でしたが、残念ながら急遽中止に・・・。
昨年の同時期、上越市の直江津港に入港した「こんごう型」ミサイル護衛艦である「みょうこう(DDG-175)」を見学して以来、現代の戦闘艦艇の放つ圧倒的なパワーに魅せられています。
本艦は間もなく艦齢30年に達し、お世辞にも最新艦艇とは言えませんが、艦齢延伸措置により当分は主力の汎用護衛艦であり続けるようなので、この機会を逃すわけにはいきません。
なお、「あさぎり型護衛艦」の詳細については、ウィキペディア「あさぎり型護衛艦」を参照願います。
本日は生憎の雨模様。
両日とも午前(9時から12時)と午後(13時30分から15時30分)に艦内を見学できますが、乗艦開始30分前の8時30分ころには既に行列が・・・。
1時間ほど艦内を見学しましたが、連休中ということもあり、10時ころには艦上は沢山の人で溢れかえりました。
全長137m、基準排水量3,550トン(満載排水量5,200トン)
次級の「むらさめ型」(全長151m、基準排水量4,550トン)以降の汎用護衛艦に比べると一回り小さく、欧米では駆逐艦ではなくフリゲートに分類されるサイズですが、それでも間近で見ると、その大きさに圧倒されますね。
ここからは実際の見学順路に沿って撮影した各種兵装などをザックリと紹介します。
▲前甲板に設置された艦載用対潜ミサイルシステムである74式8連装アスロック((Anti Submarine ROCket)発射機
▲本艦の主砲であり、優れた対空戦闘能力を有する62口径76ミリ単装速射砲(オート・メラーラ 76mm コンパクト砲)
▲実弾と同重量の62口径76ミリ単装速射砲用教練弾薬砲
▲上部構造物両舷に設置された高性能20mm機関砲(ファランクス CIWS Mk.15 mod.2 ブロック0)
▲高性能20mm機関砲の機関部(M61 バルカン)
▲艦載用のデコイ(チャフ)展開システムであるMk 36 SRBOC (Mk.137 6連装デコイ発射機)
▲後部煙突直前から両舷に向けて発射するように設置されたハープーンSSM(艦対艦誘導弾) 4連装発射筒
▲米軍のMk32短魚雷発射管(324mm口径)を国内でライセンス生産した68式3連装魚雷発射管(HOS-302)
▲後部のヘリ甲板及びヘリ格納用ハンガー
▲艦載ヘリは米軍の哨戒ヘリであるSH-60Bシーホークを三菱重工業がライセンス生産したSH-60J
▲ヘリ格納用のハンガー内部
▲艦尾甲板に設置された個艦防空用のシースパロー短SAM(短距離艦対空誘導弾) 8連装発射機
埠頭には陸上自衛隊新発田駐屯地に所在する第30普通科連隊から高機動車、軽装甲機動車、82式指揮通信車、偵察オートバイも出張展示。
子供向けの制服試着体験、防弾チョッキや鉄帽の試着体験もできます。
また、本日は航空自衛隊新潟分屯基地に所在する航空救難団新潟救難隊の救難捜索機U-125A及びUH-60Jが飛行展示を実施しました。
陸・海・空の3自衛隊すべてが一度に楽しめる貴重な機会です。
明日まで一般公開中なので、興味のある方は是非とも足をお運びください。
それでは!
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