2018年12月28日
無可動実銃 IMI UZI 分解編
前回の記事で無可動実銃“IMI UZIサブ・マシンガン”鑑賞編をご紹介しましたが、今回は分解編をお送りします。
無可動実銃といっても全ての部品が溶接固定されているわけではなく、撃発機構に関係する可動部品を除き、モデルガンのように基本的なフィールド・ストリッピング(通常分解)を楽しむことができます。
まずは銃本体からマガジンを外します。どの銃種に関わらず、マガジンを抜いて薬室の抜弾を確認するのは、通常分解の基本です。
付属のマガジンはイスラエル国防軍(IDF)放出のUZIでは標準的な25発容量で、9x19mm弾薬に準拠したダブル・カラム、ダブル・ポジション・フィーディング仕様です。
上部のマガジン・リップ及びフォロワー周辺。マガジンは銃本体と同じく、プレス加工による堅牢なスチール素材が採用されています。
マガジン両側面には装弾10発以降5発ごとに残弾確認孔が設けられています。
本来の未装弾マガジンであれば残弾確認孔から、マガジン・スプリングが垣間見えますが、加工基準の厳しくなった近年の無可動実銃ではマガジンの実銃への転用防止のため、加工に際してマガジン・スプリングが外されます。
そのため、加工元のシカゴレジメンタルスさんでは、マガジン・スプリングの代替に段ボール紙を挿入してフォロワーを支えています。
ただ、構造的にマガジンが破壊されているわけではないので、適当な代替スプリングで代用することはできます。
マガジン下部両側面には小さく五芒星のマークが打刻されています。
底部のフロアー・プレートを取り外すことで、マガジンは工具を用いずに完全分解が可能です。
先述したようにマガジン・スプリングの代替として段ボール紙が挿入されています。
それでは銃本体の通常分解に取り掛かります。
まずはレシーバー上面のトップ・カバーを取り外すため、リア・サイト前方に設けられている鉤爪を指で押し込みます。
すると鉤爪で押さえられていたトップ・カバーが浮き上がり、そのまま取り外せます。
取り外されたトップ・カバー。上部には大型のコッキング・ハンドルが設けられています。
トップ・カバー背面。コッキング・ハンドルはボルトと分離されたセパレート構造になっているため、射撃時でもコッキング・ハンドルは前方で停止した状態を保ちます。
コッキング・ハンドルに結合された背面のコッキング・ラグはトップ・カバーに溶接固定されていますが、コッキング・ラグとトップ・カバーを結着するラチェット・スプリングはそのまま残されています。
レシーバーからトップ・カバーを取り外すと、ボルト・グループなどの機関部を一望できます。
UZIは生産性と操作性の高さに加え、練度の低い兵士でも戦場における分解整備が容易な点も考慮されて設計されています。
UZIが開発される前、従来のサブ・マシンガンの多くは世界初の実用サブ・マシンガンとして第一次世界大戦末にドイツで開発されたMP18/Iに倣い、円筒形のレシーバーとボルトを備えた設計が主流でした。
しかし、建国間もなく工業生産能力が低かった当時のイスラエルでも大量生産が容易な点を考慮し、UZIは単純にスチール版をプレス加工しただけの四角形の箱型レシーバー構造を採用しました。
レシーバー後部には、四角形のレシーバー形状に合わせた特徴的なスチール製箱型ボルトが後退した状態で溶接固定されています。
この大きく重たいボルトの採用と十分なボルト後退量の確保によって、フルサイズUZIでは連射速度が毎分600発とサブ・マシンガンとしては比較的低速(フルサイズMP5は毎分800発)に抑えられており、フルオート射撃時のコントロールが容易な点も特徴のひとつです。ちなみに派生型のマイクロUZIでは大型拳銃並みの小型化に伴い、ボルト後退量が大幅に減少し、連射速度が毎分1400発と非常に高速になっています。
ボルト内にはリコイル・スプリング・ガイド・ロッドが貫通しており、ボルト後方に圧縮されたリコイル・スプリングを確認することができます。
なお、無可動加工されていない実銃であればボルト内に撃針をはじめとした撃発に必要なボルト・アッセンブリーが内蔵されていますが、本品では除去されています。
レシーバー前部には、ボルトを貫通したリコイル・スプリング・ガイド・ロッドと銃身を確認することができます。
無可動加工されていない実銃であれば、このままボルトを前進位置に戻し、グリップを握ってトリガーを絞ったままボルトを前方から掴み上げると、レシーバー内からリコイル・スプリング・ガイド・ロッドと共にボルトを取り外せます。
真上からトップ・カバーを取り外したレシーバー内を眺めます。
銃身とリコイル・スプリング・ガイド・ロッドがボルトに溶接固定されていることが分かります。
レシーバー内は空間に余裕のある設計で、さらにレシーバーとグリップ・フレーム付け根の間に大きめなスリットが設けられています。
これはグリップ・フレーム前部上方に設けられた突起を挿入するためのスリットで、これでグリップ・フレームをレシーバーに仮止めし、後述するグリップ・フレーム後部上方のプッシュ・ピンで完全固定します。
また画像ではグリップ・フレームが接続された状態ですが、上方からはスリットの左右に5mm四方程度の隙間が残されており、異物の排出孔を兼用したデザインであることが分かります。
レシーバー内では射撃時にボルトが激しく前後動するため、通常は砂塵や泥などの異物が機関部に侵入すると作動不良の大きな原因となります。
しかし、このような異物の排出孔を設けることで、軍用サブ・マシンガンとして戦場のような過酷な環境下でも優れた信頼性を確保しています。
こうした信頼性重視の設計思想は、戦後の現代サブ・マシンガンとして双璧を成す後発のH&K社製MP5サブ・マシンガンとは一線を画する点です。
ボルトが後退している状態で溶接固定されていますが、このままボルトが前進すると銃身の後端を深く包み込みます。
このようなL型構造のボルトは、一般手にラップアラウンド・ボルトやテレスコーピング・ボルトと称され、銃の全長を短く設計することができ、さらにフルオート射撃時のコントロール性を高めます。
L型構造のボルトをはじめ、プレス加工成形の箱型レシーバー、グリップ兼用のマガジン・ハウジング、グリップ・セーフティの採用など、開発者のウジエル・ガルはUZIの設計に際し、当時イスラエルで輸入を検討していたチェコスロバキア製のZK476試作サブ・マシンガン(7.62x25mm トカレフ弾準拠)に強い影響を受けたとされています。
なお、1946年に試作されたZK476の輸入自体は、1948年にチェコスロバキアがアラブ諸国の支援につくソ連型社会主義国となったことでキャンセルとなり、それが契機となってイスラエル国産兵器であるUZIの開発計画が急務として持ち上がります。
続いてレシーバーから銃身を取り外します・・・と言いたいところですが、当然のことながら無可動実銃の銃身は溶接固定されているため、取り外すことはできません。
しかし、銃身をレシーバーに固定しているバレル・ナットまでは取り外すことができます。
矢印で示したキャッチ・レバーを指で押し込むとネジ込み式のバレル・ナット基部の固定が解除されます。
バレル・ナットを取り外した状態。本来であれば、このまま銃身をレシーバーから引き抜くことができます。
取り外したスチール製バレル・ナット。
最後にグリップ・フレームをレシーバーから分離します。
ブリップ・フレーム後方に設けられているプッシュ・ピンを指で押し込むと簡単に引き抜くことができます。
無可動加工されていない実銃の場合、既に分解済みのリコイル・スプリング・ガイド・ロッド先端でプッシュ・ピンを押し込む方が容易です。
グリップ・フレーム前方はレシーバー基部に突起が噛み込んで仮固定されているだけなので、後方のプッシュ・ピンを外せばそのままグリップ・フレームを分離可能です。
グリップ・フレームを取り外したレシーバーを下側から眺めます。
グリップ・フレームで隠れていたレシーバー基部の構造を観察することができます。
ハンドガード後方のレシーバー下面に設けられた2つの小さなスリットは、グリップ・フレーム内のシアとボルトを接続するためのものです。
側面から見たレシーバー内のボルト。溶接加工の状態が分かります。
取り外したグリップ・フレーム。
本品は加工基準の厳しくなった新加工品のため、シアやスプリングをはじめとしたトリガー・メカニズム関連パーツは全て除去されています。
トリガー・スプリングも除去されているため、トリガー・ピンに固定されているだけのトリガーにテンションはなく、ぷらぷらと宙に浮いている状態です。
トリガー前方に位置するシア・ピン下部の大きめのスリットは、無可動加工の際にあけられたものです。
トリガー・ガードの位置する前部上方からグリップ・フレームを眺めます。
フレーム内右側にあるL字型の部品は、グリップ・フレーム側面のセレクター・スイッチと連動したセレクター・レバーです。
板バネ状のセレクター・スプリングは残されているため、セレクター・スイッチのテンションは残されています。
また、同じくフレーム内左側にあるL字型の部品は、グリップ後端に設けられた金属製グリップ・セーフティと接続されたレバーです。
こちらも内部のグリップ・セーフティ・スプリングは残されているため、オリジナルのテンションが残されています。
グリップ・フレームにマガジンを挿入した状態。
通常分解を終えたUZI。本来であればボルト・グループなども分解可能ですが、無可動実銃で分解可能なのはここまでです。
それでも実際に分解を行うことでUZIの部品点数の少なさを実感でき、何よりも耐久性と整備性の高さが一義に要求される軍用サブ・マシンガンの理想を具現化した秀逸な設計であることが理解できます。
また、工具を使用しない分解はここまでですが、マイナス・ドライバーを使用すれば合成樹脂製のハンドガード及びグリップ・パネルも簡単に取り外せます。
ちなみに本家IDFやイスラエル警察などへの納入実績を誇るイスラエルの軍需企業“FAB-Defense”では、UZI専用のアルミニウム合金製モジュラー・レール・システムを供給しており、標準ハンドガードと換装するだけで、発展性の乏しいUZIでもウェポン・ライトやレーザー・サイトをはじめとした最新のCQB向けオプション・デバイスの運用が可能となります。
UZI分解編は以上です。
戦後、軽便なアサルト・ライフルの台頭によって軍用サブ・マシンガンの存在意義自体が低下。その後、サブ・マシンガンの新たな活躍の場として需要が高まった法執行関係機関や対テロ特殊作戦向け製品市場の大半も、後発のH&K社製MP5サブ・マシンガンに奪われました。
本家IDFを含み、冷戦期にUZIを制式採用した西側先進諸国においても開発から70年以上が経過したUZIは減耗により一線から退き、現在ではその姿自体を見ることが少なくなりました。
世界的に運用国の減少しているUZIですが、生産元のIMIでは2001年までに20億ドル以上の収益を得ており、90ヵ国以上にUZIを輸出しているため、21世紀に至っても未だに一部の発展途上国や予算の少ない小国などでは現役です。発展型のミニUZIやマイクロUZIなどを含み、ブラジルやアルゼンチン、ペルーをはじめとした正規軍所属の対テロ特殊部隊における運用が確認できます。
さらに中東戦争をはじめ数々の戦場でも大量に使用拡散されたUZIは正規軍だけでなく、非正規の武装勢力やテロリストの手にも渡っており、今後も各地の紛争地域で酷使されるでしょう。
個人的にも流麗な曲線が多く精密な構造をもつMP5とは対極的に、無骨な外観に耐久性重視の単純な構造を有するUZIには、男のロマンとも言える独特の魅力を感じます。
東京マルイ製品をはじめ、UZIをモデル化した数少ないトイガンの製造も終了し、現在ではその人気も今一つですが、無可動実銃を通じてUZIが現代サブ・マシンガンの傑作機種であることを実感できました。
また機会がありましたら、UZIの周辺アクセサリー・パーツについても取り上げてみたいと思います。
それでは!
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)
架空私設特殊部隊 Team JP-SWAT
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