2017年04月10日
VFC MP5A3 #03 「LE SF(シングル・ファイア)仕様」
VFC MP5A3ガス・ブローバック・ガンをベースとしたLE SF(シングル・ファイア)仕様です。
LE(法執行関係機関)向けのMP5SF(Single-Fire)モデルをモチーフとしています。
MP5SFは1980年代後半に9mmパラベラム弾に準拠した半自動式カービンとしてFBI(連邦捜査局)の要請に基づいて開発され、固定式ストックを備えたMP5SFA2と伸縮式ストックを備えたMP5SFA3がラインアップされました。
MP5SFはサブ・マシンガンの大きな存在意義である連射機能をあえて排除し、単射のみが可能な2ポジション・トリガー・グループを搭載しています。
大半の国においてLEの活動の場は護るべき国民の生活する市街地であり、常に流れ弾による付帯的損害のリスクを考慮する必要があります。
また、警察系特殊部隊の主要任務である人質救出作戦では、事態解決のためには多少の人質の犠牲も止むを得ないとする軍事系特殊部隊とは異なり、人質への危害は原則として許されません。
法令に基づいて射撃の許された司法警察職員は、自身の発射した弾丸1発に全ての責任を負い、一撃必中による高い射撃技術で被疑者のみを確実に制圧することが求められるのです。
さらに、被疑者への射撃についても個々の状況に応じた合理的かつ必要最小限度の実力行使である必要があり、真に止むを得ない状況を除いて生きた状態で被疑者を逮捕拘束するのが原則です。
必然的に大量の弾丸を瞬間的に斉射する場面は限られ、実際にMP5を運用する多くのLEでは、連射による面制圧的なサブ・マシンガン本来の用途よりも、FBIが要求したとおり“低威力の拳銃弾に準拠した半自動式カービン”としての用途に重きを置いています。
MP5SFはG3アサルト・ライフルに採用されたローラー・ロッキング・システムによる遅延ブロー・バック機構を搭載し、クローズド・ボルトによる撃発で他のサブ・マシンガンとは一線を画する優れた命中精度を誇るMP5をベースとしたからこそ実現したモデルと言えます。
行き過ぎた過剰殺傷能力として連射機能の装備された標準のMP5をあえて避け、または法令上の制約から全自動火器を装備できないなどの理由からMP5SFを採用しているLEは珍しくありません。
例えばイギリスの警察官が犯罪者の武装を誘発するとして伝統的に非武装であることは有名ですが、1960年代以降は増加する銃器犯罪やテロリズムなどの凶悪犯罪に対応するため、銃器携行許可をもつAFO(Authorised Firearms Officer:公認射手)が武装要員として存在し、グロックなどの自動式拳銃に加えて連射機能を除いたMP5SFを採用しています。
また、我が国でも人質立てこもり事件などの特殊刑事事件に対処する警視庁刑事部所属SIT(特殊犯捜査係)において、短縮型のMP5Kに2ポジション・トリガー・グループを搭載したMP5SFKの運用が確認されています。
この他、関連モデルとして1983年から1989年までの間、米国の民間市場向けに輸出されていたシビリアン・モデルであるHK94も2ポジション・トリガー・グループを搭載していますが、米国の銃器規制に合わせてピストル・カービン扱いとなるように16.54インチ(420mm)の長銃身を装備しています。
さて、前置きが長くなりましたが、今回はイギリス警察のSCO19のようにMP5 SFを運用する2000年代中頃の警察系特殊部隊をイメージし、VFC MP5A3に各種外装アクセサリーを追加しました。
標準装備のネービー・タイプ・3ポジション・トリガー・グループ・ハウジングは、MP5SF最大の特徴であるFBIタイプ・2ポジション・トリガー・グループ・ハウジングに換装。
また、標準装備の合成樹脂製ハンドガードもSUREFIRE社製のM63ピカティニー・レール・フォアエンドに換装しています。
両側面及び下面の3面にピカティニー規格の20mmレールが設けられているため、ウェポン・ライトやレーザー・サイトなど様々なオプション・デバイスの運用が可能となります。
レールにはSUREFIRE社製M900Aバーティカル・フォアグリップ・ウェポン・ライトと同社製L72レーザー・サイト・モジュールを装着。
MP5SFの運用組織の多くが本格的な対テロ特殊作戦には従事しないことを考慮し、光学照準器はB&T社製ユニバーサル・スコープ・マウントにNVD(暗視装置)非対応のL3 EOTech社製モデル511 HWS(ホログラフィック・ウェポン・サイト)を搭載しています。
なお、VFC MP5シリーズではB&T社製を含めて大半の実銃用スコープ・マウントが装着できないことから、アッパー・レシーバー上部に設けられたスコープ・マウント固定用の爪部を中心に加工、実銃用のスコープ・マウントを無加工で装着できるようにしています。
本カスタムに使用した主要アクセサリーは以下のとおりです。
・H&K FBIタイプ 2ポジション・トリガー・グループ・ハウジング
・SUREFIRE M63 ピカティニー・レイル・フォアエンド
・SUREFIRE M900Aバーティカル・フォアグリップ・ウェポン・ライト
・SUREFIRE FM17 プロテクティブ・ビーム・カバー
・SUREFIRE L72 レーザー・サイト・モジュール
・SUREFIRE MH90ウェポン・ライト・ボディ
・SUREFIRE M49スクリュー・マウント
・SUREFIRE XM07テール・キャップ・スイッチ・アセンブリー
・B&T ユニバーサル・スコープ・マウント(BT-21262-1)
・L3 EOTech 511 HWS(ホログラフィック・ウェポン・サイト)
MP5SF最大の特徴であるFBIタイプ・2ポジション・トリガー・グループ・ハウジングは、本家VFCからも“FBIセミオート”としてロア・レシーバー・セットが販売されていますが、こちらはH&K社製の実物です。
実銃どおりの手順でトリガー・パックとセレクターを移植すれば、特別な加工なしで容易に実物ハウジングに換装することができます。
当然、トリガー・パックはMP5A3に内蔵された標準仕様のままなので、連射機能は生きています。
ハウジングの金属インサート部分には、型番に続いて6桁のシリアル・ナンバーなどが刻印さています。
▲B&T(Brugger & Thomet)社製ユニバーサル・スコープ・マウントに搭載されたEOTech社製モデル511 HWS(ホログラフィック・ウェポン・サイト)。1996年、EOTech社は同社第1世代型のHWS(ホログラフィック・ウェポン・サイト)である“Bushnell-HoloSight”を発表した。2000年代初頭に発表されたモデル551は、第1世代型を軍・法執行関係機関向けに再設計した第2世代型の代表的なモデルであり、米軍をはじめとした世界各国の軍・警察・法執行関係機関で採用され、警視庁SAT(特殊急襲部隊)など我が国の警察特殊部隊においても運用が確認されている。HWSは戦闘機のHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)などに使用されるレーザー・ホログラフィック技術を応用した新世代の光学照準器であり、ハーフ・ミラーやLED光源などを用いた従来のダット・サイトとは異なり、その構造上レンズが多少損傷しても光点が失われず、継続した照準が可能などの利点がある。特殊作戦対応のモデル551には暗視装置を併用した照準が可能なNV(ナイト・ビジョン)モードが搭載されているが、暗視装置の運用を想定していない顧客(特殊作戦に従事しない法執行関係機関や警備関係機関など)向けにNVモードを省いた廉価版がモデル511だ。後継のXPSシリーズの発売に伴って既に製造が終了したシリーズではあるが、現在でも各国のタクティカル・ユースでは新機種に混じってモデル551/511の運用が確認できる。なお、本個体に印字されたロゴは、EOTech社が米国の大手軍需企業体であるL-3 Communicationsに買収された2005年以降のものだ。
▲B&T社製ユニバーサル・スコープ・マウント(B&T mounting rail NAR Universal Mount BT-21262-1)は、MP5 SMGシリーズをはじめとした共通のスコープ・マウント規格を有するH&K社製小火器に対応した汎用スコープ・マウントであり、G3シリーズやHK33シリーズなどのライフルにも装着可能だ。マウント本体はアルマイト表面加工が施された軽量なアルミニウム合金製で、全高を低く抑えたロー・プロファイル・デザインを採用しているため、マウントを装着した状態でも銃に備え付けのアイアン・サイトによる照準が可能である。マウント側面に印字されたB&Tのロゴは、現行の控え目なデザインではなく、大きな字体を採用した2000年代のものだ。
▲SUREFIRE社製のM63ピカティニー・レール・フォアエンドは、MP5 SMGシリーズ専用に設計されたトリプル・レール・システムだ。本体は軽量かつ高強度なアルミニウム合金製で、表面処理には優れた耐磨耗性と硬度を誇るMIL-A 8625F ハード・アノダイズド・アルマイト(硬質陽極酸化処理)加工が施されている。また、本体の軽量化と銃身から放射される熱を効率よく外気に伝達させるため、本体上部には空気循環に優れた大胆な開放部を設け、レール部分などにも多数の放熱用ホールが設けられている。
▲ハンドガード・ロッキング・ピンを利用した固定方法を採用しているため、特別な工具を用いずに標準装備のハンドガードと換装するだけで、既存のMP5でも容易にレール・システムの運用を開始できる。特殊作戦に対応する剛性と運用時の装着精度を保ちながら、限界まで軽量化を図った秀逸なデザインの採用によって本体重量は約150gと軽量であり、標準装備のハンドガードと換装しても射手への負担は少ない。現在、市場に流通するMP5専用レール・システムの中でも、M63ピカティニー・レール・フォアエンドは高品質と低価格を両立した代表的な製品として多くの戦術部隊から高い評価を受け、各国の軍・警察・各種法執行関係機関に採用されている。我が国でもMP5を運用するSAT(特殊急襲部隊)や銃器対策部隊をはじめ、一部の警察特殊部隊においてM63ピカティニー・レール・フォアエンドの運用が確認されている。
▲M63ピカティニー・レール・フォアエンドには、20mm幅のピカティニー規格レールに対応したSUREFIRE社製M900Aバーティカル・フォアグリップ・ウェポン・ライト及び同社製L72レーザー・サイト・モジュールを装着している。モジュラー・レール・システム普及の過渡期にあった2000年代前半、M900Aはモジュラー・レール・システム向けバーティカル・フォアグリップと大出力ウェポン・ライトの両機能を人間工学に基づいて合成した画期的なモデルとして登場した。防水・防塵構造の本体外装には、ガラス繊維を含む強化合成樹脂(ナイトロン・ポリマー)と航空機鋼材用のアルミニウム合金が用いられ、優れた耐久性と軽量化を実現している。バーティカル・フォアグリップ部分に3本のCR123Aリチウム・バッテリーを内蔵し、光源には耐衝撃構造のベゼル内部にMN10キセノン・バルブ・(光束125ルーメン)を搭載。バーティカル・フォアグリップ両側面にテープ状の間欠点灯用モーメンタリー式スイッチが設けられており、フォアグリップを把持した状態のままスイッチの操作ができる。また、ランプ・アッセンブリーの後部には常時点灯用のロータリー式スイッチも設けられ、継続したライティングも可能だ。さらに、バーティカル・フォアグリップ上方後部に設けられたモーメンタリー式スイッチを押下することで、ランプ・アッセンブリー上部に設けられた2灯の低出力LEDナビゲーション・ライトを点灯することができ、自己位置の暴露を最低限に抑えながら、進行経路などを照らすことができる。本個体のナビゲーション・ライトは標準的な白色LEDだが、他にも赤色LED及び青色LED、IR(赤外線)LEDを搭載したバリエーション・モデルが製造された。
▲レールに装着するためのマウントには、米国の大手銃器関連部品メーカーであるA.R.M.S.社製の特許製品“スルー・レバー”を採用したシングル・レバー“Tri-Lock”マウント(SUREFIRE社の製品名称はM50)が装備されている。20mm幅のピカティニー規格レールに対応した“Tri-Lock”マウントは、側面に設けられたスルー・レバーの開閉操作によってマウントの着脱が可能であり、スクリュー固定方式を用いた従来の一般的なマウントに比べ、瞬時に着脱が可能なクイック・リリース・マウント・システムだ。マウントの着脱操作は容易だが、高い剛性と工作精度の実現によって確実な固定を実現しているため、M900シリーズのようにバーティカル・フォアグリップを介した運用であっても装着時の動揺は一切感じられない。
▲モデルL72レーザー・サイト・モジュールは、SUREFIRE社が1990年代後半から製造を開始した出力5mWの赤色可視光レーザー・サイトである。 レーザー発振器を無加工で取り外し可能なモジュール式のコンポーネントにすることで、同社がラインアップするウェポン・ライト・システムとの組み合わせにより、ライフルやSMG、拳銃など様々な銃種でレーザーサイトの運用を可能とした画期的な製品であった。 L72レーザー・サイト・モジュールは、従来の大型のレーザー・サイトのデメリットを払拭した小型軽量な半導体レーザーを採用しており、 その軽便さから同社のウェポン・ライト・システムと併せて世界各国の対テロ特殊部隊や警察SWATに採用され、 タクティカル・ユースにおけるレーザー・サイト・システム普及に先鞭を着けた。 また、可視光レーザーを照射するL72の他にも、ナイト・ビジョン・デバイス(暗視装置)と併用することを前提とした不可視光のIR(赤外線)レーザー照射機能をもったL75も製造された。なお、本個体は製造終了の最終ロットに近い2005年製造のものだ。
▲L72レーザー・サイト・モジュールは、ミレニアム・ウェポン・ライト・シリーズの主要なボディ・アッセンブリーであるMH90ウェポン・ライト・ボディに装着し、M49スクリュー・マウントを介してレールに固定している。ボディの後部に装着されたXM07テール・キャップ・スイッチ・アセンブリーは、ピン・ジャックの採用で任意に着脱可能な7インチ長ケーブル付きモーメンタリー式テープ・スイッチに加え、ハンディ・フラッシュ・ライトなどに装備されるオルタネイト式プッシュ・スイッチを1つのテール・キャップに配置したスイッチ・アッセンブリーだ。フォアグリップなど任意の位置に配置可能なテープ・スイッチは間欠点灯操作のみ可能だが、テール・キャップに設けられたプッシュ・スイッチは常時点灯操作に加えて、半押し状態での間欠点灯操作も可能な設計であり、プレッシャー・スイッチが故障した際の戦術的な冗長性を確保している。
日本警察特殊部隊愛好会(JP-SWAT)
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